何処かの溜め池の堰堤下に到達したものの、それが門前池であるか確信が持てなかった。
水路に沿って続いていた細い道は、走水路の上を一枚物のコンクリート板で横切っていた。
堰堤下部からちびちびと流れ出る水が溜まっている。
それも妙に赤茶けた水だ。
余水吐の走水路が取水口のすぐ下へ交わるように接続されていた。
歩けないこともなさそうだが、堰堤上までの道はない。
それにしても…もの凄い橙色だ。よっぽど金気を含んだ水なのだろうか。
(子どもの頃はよくこういう水路を見つけては「ウンコが流れている」なんて言っていたものだ^^;)
下流はそのままコンクリート張りの水路に繋がっていた。
灌漑用水需要期は堰板を置いて今まで辿ってきた細い水路に流すのだろうか…
(しかしこれほど金気のある水で美味しい作物が育つかどうかは…)
何もないこの堰堤の真下に、素性を見せてくれそうなものがあった。
雑草にまみれて石碑のようなものが顔をのぞけている。
すべての文字を読み取るには、全面に蔓延った雑草を押しのける必要があった。
(雑草を除去する前の写真はこちら…日当たりが良いせいかイバラだらけだった)
やはり間違いなく門前池だった。
記念碑には昭和54年3月改修となっていた。
昭和50年代なら、同じく堰堤を改修して石碑が設置されている馬の背上池よりは古い。
走水路や三面張りの水路も同時期の施工だろう。
さて…
堰堤の上に向かいたいのだが、どういう訳か安泰な道はコンクリート板を渡ったところでぷっつり途絶えていた。
堰堤の左岸側斜面には踏み跡と思しき部分が見えている。しかしそこまでの道が何故か「繋がっていない」のだ。
いや…繋がってないこともないのだろう。しかし上の写真の通り、石碑の置かれている練積ブロックの天端は歩ける程の幅がなく、斜面は至る所イバラが潜んでいた。ブロック積の外側にはU字溝が据えられていてその外側は山の湧き水でしっぽり濡れ沼地のようになっていたのである。
まさかここまで来て引き返す筈がない。どんな手段を用いてでもとなれば…あの隠し業に頼るしかあるまい。
秘技・U字溝上渡り!
(厚東川1期導水路踏査のNo.13-1を訪れるとき演じたのが最初だったかな…^^;)U字溝の肉厚は数センチしかなく、平均台渡りよりも難易度は高い。どちらへよろめいても水分をたっぷり含んだ泥地へ足を突っ込むことになる。笑い事ではなく失敗は許されないので、殆ど摺り足での歩行というかなりの真剣勝負になった。
斜面まで到達すればもう大丈夫だ。
いよいよ門前池との初・御対面だ。
枯れた雑草の目立つ堰堤の先には緑色の水面が見えかけていた。
確かに美しい…
水が紺碧色だ。馬の背池で観たのより更に深く濃い。そして地図の通り北の方へ奥深く伸びていた。
池の内側は平ブロック積みで、何段も下の方まで見えていた。
堰堤の様子。
藪状態ではないがかなり草が生えていた。殆ど訪れる人もないらしい。
堰堤の中ほどに何かを知らせる立て札が倒れていた。
すべての文字が色褪せて殆ど読めない。最後の一行の「立ち入らないでください。」しか判読できなかった。
地に伏したまま放置されているので別に問題ないということだろうか…
堰堤の右岸側には倒れていない立て札もあったが、同様に文字が色褪せて読みづらくなっていた。遊泳禁止ならまだしも、堰堤にフェンスも設置されないこの状況で立入禁止はないだろう。かつて子どもが溺れるなどの事故でもあったのだろうか…
そう言えばここ門前池には子どもが溺れかけているイラストを基調にしたお馴染みの遊泳禁止の立て札がみられなかった。徒歩で訪れる人も殆ど居ないので省略されたのかも知れない。
まずは堰堤の中央から望む門前池の姿を。
確かに南北へ細長い溜め池であることがうかがえる。
ひとまず動画撮影もしておいた。
[再生時間: 28秒]
さて、次行こうか…
えっ?
写真はたった一枚だけ?
…って言うだろうと思っていたよ^^;写真はたった一枚だけ?
まあ…慌てることはない。
面河内池のときと同様、後でじっくりと堪能するとして、まずは初めて訪れた門前池がどんな特徴をもっているのか一通り歩き回って調べようと思った。
草まみれの堰堤を右岸に向かって歩く。
その末端部は余水吐の走水路によってぷっつりと分断されていた。
余水吐の間口はかなり広く、橋は架かっていない。そのためここから対岸へ移動する手段はない。
もっともざっと対岸を眺めた限りでは踏み跡らしきものは見られない。元から道がなかったのだろう。
池の水は上限一杯に達していて、余水吐の堰堤寄りからチョロチョロと流れ出ていた。
4月中は結構降ったのでどの溜め池も水位が高い。面河内池でもそうだった。
右岸側から観た堰堤。
平ブロックの継ぎ目から草が生えているのは今まで訪れた他の溜め池と同様だ。
さて、堰堤上を歩き回っていて、どの灌漑用溜め池にも備わっているべきものがここには見当たらないことに気付いた。上の平ブロックの堰堤部の写真を観察すれば読者もお気づきになるかも知れない。
後でそれが他の溜め池にない奇妙な位置に存在することが分かった。
(「門前池【2】」へ続く)