塚穴川・女夫岩の滝【1】

インデックスに戻る

現地踏査日:2012/3/25
記事編集日:2015/4/12
我が市のこんな海岸線に近いところに
私の知らない滝があった。
概要を「海岸線から1km以内にある滝」として外部ブログに先行公開している

後で述べるように、その場所の滝は実は完全に自然が造り出したものという訳ではない。100年近く前に必要あって川が付け替えられ、その結果生まれた滝である。景観目的で造られたのではないことは、この滝の存在が近くにお住まいの方以外恐らく殆ど知られていないことからも明らかだ。

所在地を地図で示そう。


この滝は夫婦池から流れ出る塚穴川が国道を横切った先に存在する。原生林で囲まれた夫婦池に次いでここも人の手があまり入っていない場所で、航空映像でも雑木しか見えない。

初めて見つけたのは3月上旬のことで、国道横断部の先に井堰があり、その下流側に滝の落下口らしきものを見つけていた。


このときは接近して確かめることができなかった。露岩が多く川の中を歩くことはできそうなものの、井堰からは高低差があって降りられなかったのである。
それで一旦撤収し、地区道の先を進んでいてこの沢へ降りる経路を見つけることができた。そして塚穴川を下流から辿ることで落差が5mを超える滝であることが分かったのだった。

それほどの滝と分かった以上、私は改めてこの滝の上部から眺めてみたいと思った。
井堰から降りられない以上、落下口まで川に沿って辿り、降りられる場所を探すことになる。そのためにはかなり厳しい藪へ突入しなければならないことは初めて現地へ行ったときから分かっていた。

いわゆる”藪漕ぎ物件”の踏査限界は4月までだ。それを過ぎると木々は新しい葉を付け始め、それを目当てに毛虫たちが活動開始する。そうなったらもう藪漕ぎどころか野山へ分け入ることすら躊躇われる。
行くなら今しかないと思い、行動を起こした。

---

前回訪れた井堰のところまでやってきた。
全く無作為にカメラを構えていながらすぐ上の写真とほぼ同じアングルである


改めて検討するに、河床へ降りるのにやはり井堰からでは駄目だ。安全に上がって来られる目処がたたない。

護岸に沿って進むこともできない。
左岸の際まで灌木が密集していたからだ。
あまり見かけないシュロの木が生えている…鳥が種子を運んで生えたいわゆるノラジュロだろうか…


腹をくくって藪に突入する。
日当たりが悪い場所なので凶悪なイバラ系は見あたらないが、雑木の密集度は高い。


まだ気温が低いから動植物の活動は鈍い。しかしこれが新緑に変わる頃には柔らかな新芽を求めて昆虫も動き回る。植物の種類にも依るが、こうした大きめの葉の裏に毛虫がビッシリ…なんてことも有り得る。
そんな中へ突撃するなんて絶対に嫌だ。目にすることさえご免被りたい。

平行に歩きつつ降りられそうな場所を探した。
常盤池から夫婦池に注ぐ排水路である荒手と同様に元々は岩だった場所を削った痕跡が窺える。
落下口の観察もさることながらこの構造を近くで眺めるのも目的にあった
周囲が露岩ばかりで岩を削って水路を造ったあたり荒手と似通った点がある。しかしこの排水路にはそれほどの精密さは見られない。


夫婦池が完成した大正期以前はここは水が流れる場所ではなかった筈だ。記録はなくともかつての塚穴川はこの近辺の深く広い沢の一番底を流れていたと想像できる。
現在の国道の位置で沢を堰き止め、池に溜まった余剰水を排出するために堰堤分を避けてこの場所に排水路を造ったのだ。
堰堤によって水位を上昇させたのだから、夫婦池から下流側の塚穴川と接続するなら何処かに高低差を解消する場所がある。そのことを思えば滝の存在は必然であった。しかしそれはあまりにも人目に付かない場所へひっそりと身を潜めていたのである。

幸いなことに岩の一部が風化し、土の斜面になっている場所を見つけた。そこはもしかすると人が降りたかも知れない形跡があった。


それほどの高低差はなく川面まで2m程度。周囲には適度な灌木があって問題なく昇降できそうだ。
こうして遂に河床へ降り立つことができた。

「あらて」の排水路とは異なり、井堰から下流側の河床はまったく整正されていない。流水の削るに任されていた。
上流から押し寄せたと思われる浮遊ゴミが自然な岩肌には不釣り合いで残念だ。
テレビや雑誌向け記事だったら周囲のゴミ拾いなど行って清掃してから写真を撮るのだろう…


護岸部分は自然の岩で、確かに削られたような痕跡があった。


左岸側も同様に削られている。その縁まで大きな木が接近していた。後からこの場所を選んで生えてしまったのだろうか…


水が溜まっていて接近できないので、若干ズームしフラッシュ撮影している。


上流側を撮影。
井堰を落下した水は暫く溜まり水になっていた。
そこまでは井堰の前後と同様にコンクリートの土間があるらしく接近できない。


井堰をズーム撮影。
完全に固定されたコンクリート堰堤の上に堰板を固定する柱が突き出ている。


井堰から流れ出た水は岩を噛んでここまで流れ…


3m程度の幅のある部分のうち30cm幅くらいを流れていた。


井堰から10mくらいは緩やかな勾配で、私が河床へ降りたあたりから急勾配に変わっていた。
滝の下にある袋状の池がここからも見えている。


起こりえる危険を重々承服して滝の落下口へ接近開始した。
両岸の岩がほぼ垂直に切り取られている様子が分かる。右岸側もあらかた削られているように見える。


右岸側から別経路で流入する流れが見えていた。写真では角度が分かりづらいかも知れないが、右岸からの流入する水は垂直落下している。本流が45度くらいの傾斜であることが実感されるだろう。

落下口は幅が狭くなっているため、河床のほぼ全幅を使って薄く流れていた。
元は一枚岩だった部分を溝状に切り取ったように思われた。


接近の限界。
池から反射してもたらされる光のために写真が不鮮明で、高低差や角度が分かりづらいのはどうしようもなかった。
井堰付近からは背丈程度ほど下ってきていながら、落下先の池まで目測でも5m以上あった。


両腕を思い切り伸ばしてズーム撮影。
ゆらめく池の水面と黒々とした露岩が強調されて限りなく妖しい景観だ。ズーム撮影している間もファインダーから覗いていると吸い込まれそうな感覚に頭がクラクラした。


安全な場所まで戻り、足場をしっかり確保した上でこの周辺を動画撮影してみた。

[再生時間: 44秒]


一連の写真と動画でここがどんな場所か伝えることができただろうか…
これくらいで充分だろう。
そろそろ復帰しよう。
降りてきた場所。
ここは地山部分が目立つので足掛かりは良い。注意すれば河床に降りるのに困難はないだろう。
もっとも春先以降は井堰からこの場所に到達すること自体が酷く困難になるだろう


再び藪を漕いで井堰のところまで戻った。


この日、滝の上部を再訪する前に夫婦池の本土手の追加写真を撮っていた。深い沢の右岸側は藪に覆われていて視認しづらかったが、急傾斜ではあっても目立った露岩はないように思われた。
これに対し、現在の塚穴川が通されている左岸側は極めて露岩が多い。堰堤部を護るために流水で削られにくい露岩部分を敢えて通したと思われるが、この地勢的傾向から次のような推測が頭に浮かんだ:
かつて存在したと言われる「女夫岩」は、
この沢の左岸側にあったのでは…
女夫岩はかつてこの広く深い沢にあったとされる奇岩で、近辺の小字や夫婦池の名前の由来にもなっている。
詳しい情報は「夫婦池・汀踏査【4】」に記載している

夫婦池と塚穴川の接続部付近も、この滝の落下口付近同様に露岩の目立つ場所だった。
夫婦池を締め切る堰堤の候補地は、露岩が張り出して狭隘になっている場所と考えられるから、伝承も加味して推測するなら女夫岩は沢の左岸側で国道の道路敷下に埋まっているのではなかろうか。[1]

---

この場所を訪れるなら遅くとも4月一杯だろう。そこから先は酷い藪を漕ぐ忍耐力と虫害に遭うかも知れない覚悟が要る。現地には柵を含めて注意喚起するものは何もない。落下口は部分的に水が流れ湿っており、苔を纏った露岩の上に落ち葉が堆積している。水量に乏しい滝だけに足を滑らせ転落すれば尖った露岩で重大事故に繋がるだろう。

なお、滝の落下する場所はこの地区道を進んですぐ右側にある家の手前の下り坂をたどることで容易に行くことができる。


下から写した滝の様子は塚穴川をたどる過程で見つけることができた。
既出の記事であるがこの続きとしてリンクで案内しておこう。

(「塚穴川【3】」へ続く)
出典および編集追記:

1. 女夫岩は国道拡幅工事のとき道路敷の下へ埋められたとされる。「ふるさと恩田」(ふるさと恩田編集委員会)p.47

ホームに戻る