塚穴川・女夫岩の滝【2】

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現地踏査日:2016/6/23
記事公開日:2016/7/9
時系列では「夫婦池・本土手【3】」の続きとなる。
夫婦池から結構な量の余剰水が荒手へ流れ出ているのを見届けたので、下流にある女夫岩の滝は今まで見たことがない光景になっているだろうと想像された。

滝の上へ行くならこのゴミステーションの横から何とか到達できることは分かっていた。
しかし…今は別だ。あまりにも時期が悪い。


下校中の子どもたちがゾロゾロと歩道を歩いているからではない。滝の上までは元から踏み跡もなく藪漕ぎが必要だったからだ。実際、ステーションの後ろは地面も見えないほど草が伸びていて端から進攻意欲が湧かなかった。

滝を下から見るなら降り口はここだ。
先が荒れていそうだがここだけは見ておかなければなるまい。


ある程度長丁場が予想されたので、邪魔にならない場所へ自転車を避けて施錠した。
買ってまだ2ヶ月も経っていない新車なのでさすがに扱いは丁寧である

元々きちんとした道のあるところだが、今の時期やはり状況は悪い。
不快害虫が居なければ良いのだがと思いつつ足早に通り過ぎた。


滝を流れ落ちる水の音が次第に大きく聞こえ始めた頃、今まで見たことのないものが通路に設置されていた。


立て札である。
このさきキケン とおらないでねと書かれていた。端に宇部市公園緑地課という記載があって電話番号も付記されていた。見たところ立て札はかなり新しい感じなので、何か水の事故などがあって設置されたのかも知れない。

立て札の文字が「危険!立入禁止」となっていたら…さあどうするだろう。若干の背徳感を覚えるも多分そのまま進攻していただろう。危険なのは分かりきっている。何しろ近年ない増水状態なのだから、わざわざ最も危険なタイミングを選りすぐって訪れているようなものなのだ。しかし現状どうなっているか知るために来たのだし子ども向けの注意喚起の仕方だったから、殆ど躊躇うこともなく先へ進んだ。

ただし危険の警告はダテではない。立て札のすぐ先の倒木は下をくぐれたが、次に現れた2本の倒木はなかなか嫌らしい高さに障壁を拵えていた。


これらの倒木は数年前初めて訪れたときから同じ状態である。ここへ来る人など殆ど居ないし、通路へ倒れかかっている樹木はもしかすると私有地にある木らしい。それは殆ど原形を失っているネットフェンスの外側から倒れてきているからだ。
下をくぐるには低すぎるし上を跨ごうとすると上下方向に突き出る尖った枝がかなり邪魔だった。不用意に跨いでいて足を滑らせると枝の先が刺さりかねず、大人にとっても危険な場所だった。
鋸を持っていたら持参して通路開拓する奉仕作業くらいしても良いのだが…

滝から流れ落ちた水が猛烈な勢いで塚穴川の水路へ突進しているのが見え始めた。
そこへまるで念押しするかのように別の立て札が設置されていた。


立て札はあぶないので池や水路に近づかないでねとなっていて同様の宇部市公園緑地課の記載があった。どうやら塚穴川も市が管理しているらしい。塚穴川は準用河川でも指定水路でもないのだが…常盤池から河川維持分の放流があるからか、下流の塚穴川も公園緑地課が管理しているようだ。

流れ落ちる余剰水は緩衝池で暴れまくっていた。そこで直角に曲がって塚穴川の水路へ向かっている。
滝は写真の右側奥に位置する。


コンクリート床板の橋手前はシダが多いと思ったが、中に蔓を隠し持った植物が潜んでいるようで靴の先を引っかけられて少しヒヤッとした。床板橋の反対側から落下口を眺めると…

もう何が何だか分からない状態に!


先ほどみた常盤池の滝どころではない。それはある程度近くから眺められるのも要因だろうが、水流が絞られている分だけ流速も流量もはるかに上回っていた。
いかにも常盤池の滝は半壊の石橋から先で流末が広がった状態で落下するのに対し、女夫岩の滝では落下口の岩が深く削り取られていて一定幅の筋状となって落下するように造られている。この幅は落下口前の水路幅の半分以下に絞られているので、この部分で加速するわけだ。 余剰水はその落下幅ですらおさまりきらず、一部が別の場所から流れ落ちているようだった。

緩衝池は浅い部分は自然の石積み、沢地側は建築ブロック積みとなっている。建築ブロック部分が一番高いとは言ってもあまりの流量に沢地まで溢れ出る寸前だった。


いや…既に沢地へ溢れ出ていた。一部建築ブロックが欠けている部分があり、そこを越えた水は沢地側へダダ漏れしていた。
用水として引き入れるために人為的に切り欠いているのかも知れない


同じ場所から動画撮影してみた。
いきなりもの凄い水の音がするだろうから再生音量に注意されたい。

[再生時間: 37秒]


滝全体を写したかったが、時期柄木々が生い茂っていて落下口はまるで見えなかった。
全体像が入るように緩衝池の端の方から撮影している。


写真は省略するが、上の写真の撮影位置から更に沢地の対岸側にも先にみたのと同じ立て札が設置されていた。どうやら対岸からもここへ降りて来られる道があるらしい。もっとも今来た道よりも更に足元の草が深くとても進攻する気になれない荒れようだった。[1]

コンクリート床板の橋から下流側を撮影。
水路幅は充分な余裕をみて設計されているからかそれほどの水深はない。しかし流速がとても速く大人でもまず踏ん張れないだろう。


安全に歩き回れる範囲では滝の落下口を直接観察できる場所は見つからなかった。
カメラを向けても飛沫と藪以外の何も写らない状態だ。何もかもが水の下に隠されている。


コンクリート床板から一段低い石積みの上に降りられるようになっている。
水が殆ど流れなかった時期に滝の真下まで行ったときの足場だった。


そこへ降りること自体は可能だが周囲は木の枝が多い狭い場所だ。水深は人の背丈ほどもないとは言ってもこの流速である。

その狭いエリアへ降りてカメラを落下口へ向けた写真。


ズームではなく腕を最大限滝の方へ伸ばして撮った一枚。
水飛沫の造るランダムな形状が芸術的だ。


きっと連続して眺められる動画が欲しいことだろう。何とか頑張ってやってみた。

[再生時間: 19秒]


最後の方でコンクリート床板橋の下へ流れ込む流水を撮影している部分がある。カメラで両手が塞がった状態では足元を動かせないので、思い切り上体だけ捻ってカメラを向けている。このとき少しバランスを崩しかけてさすがに怖かった。
転落しても全身ズブ濡れになりつつ相当距離を流されるだけだが…カメラは確実にお亡くなりになるだろう

さてそろそろ戻ろうか。
再びあのゴチャゴチャとした幹が倒れかかっている場所をやり過ごすのが詮無いことだった。


やっと生還。
それはいいとして…ふと視線を足元に遣ったときウェアがエラいことになっていたsweat


最初、細かな毛虫が一面に張り付いたかと思いかなり焦った。このウェアはほいとプルーフ仕様ではなかった。あまりみかけないほいとだが、割とタチが良いタイプらしく手で払うと簡単に落ちた。

常盤池の余水吐越流から始まり、荒手と石橋に襲いかかる激流、常盤池の滝、渦をたてて余剰水が抜ける夫婦池の本土手からここまでの一連の観測タスクをやり遂げた。これは極度の雨のときは築堤以来何度となく起きている現象だろうが、実際こうなっているというのを目にした人は少ないだろう。

視覚的には「美しい」、感覚的には「凄い」で済まされてしまいそうだが、見方を変えればこれは非常事態である。水が溜まりすぎたとき徐々に排出されるためのものではあっても、これほどの量の水が日常茶飯事的に流れることが想定されているとは思えないからだ。

近年の気象は降雨にしても気温にしても上下の振れ幅が大きくなってきていることは多くの人に体感され、また統計的な傾向としても現れている。もしかして常盤池や夫婦池を築堤した当時の人々には想定していなかった気象状況になっている可能性はないだろうか、そして余剰水の流下が追いつかず水位が上昇の一途をたどる状況になったとき、一連の溜め池が抱えるリスクは現代の気象条件などに即して正しく評価されているのだろうか…と思われたのだった。
この件についてはいずれ独立記事を作成する予定です
出典および編集追記:

1. 緩衝池がとても古めかしいものに思えたので数年前にこの沢地周辺を綿密に調査したときこの先へ進攻したことはある。このとき夫婦池の水を取り出して灌漑用水として供給するレンガ積みの古い水路を見つけている。
恐らく現在は使われておらず四季を通じて現地への到達は極めて困難

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