市道柳小野宗国線【3】

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(「市道柳小野宗国線【2】」の続き)

民家のすぐ前にあり、まるで市道を進む歩行者を不法侵入者扱いにでもするかのようなあの嫌らしい障壁と同じものがまた現れた。


最初の障壁から数十メートルしか進んでいない。次々に現れる障壁は踏査の邪魔以外の何物でもなく、一瞬イラッと来て障壁を蹴り倒したくなった。
しかしあまりにも異常なほどの障壁に別のことを考え始めた。
こんなにも障壁がきついとは、
きっと何か事情があるに違いない…
振り返って撮影した。
あの民家はまだここから見える位置にある。私が何をしているか概略くらいは分かるだろう。それ故にあんまりなことは出来なかった。


ここでも同じ金網がビニル被覆の番線で2ヶ所結わえてあった。


面倒なので障壁を避けて進むことも考えたが、やはりこの幅広な溝がネックだ。


回避してもまた藪漕ぎになるだけだ。時間が勿体ない。
それで番線を解いて最初にやったのと同じ要領で身をかわして反対側へ至った。

ここもいちいち結び直さず鉄筋に掛けておいた。どのみち必ず同じ経路を戻って来るのだから、帰るときに元通り結び直しておけばよかろう。


また3つ目の障壁が出現するんじゃないか…と思いながらも先に進む。
段々と道自身や周囲の荒れ具合が目立ってきた。道普請は全く行われていないようで、県仕様のガードレールですら藪に隠されつつある。


さっきまでずっと左側に続いていた沢と小川はここで向きを変え、左手奥の山側に伸びていた。
その先で黄色いガードレールが切れている。沢を遡行する分岐があるようだ。


振り返って撮影。
まだ路面のアスファルトは保たれている。しかし全くと言って良いほど通行者がないらしく木の葉で覆われまくっていた。


ともあれ、軽い登り坂のお陰でやっと自分の居場所があの民家から見えなくなった。この先は何が現れようが気兼ねすることなく自分のペースで振る舞うことができる。
イノシシや野犬が出没しても独力で対応するしかないが…

漸く少しばかり余裕ができて周囲を丹念に観察し、カメラを向ける余裕がでてきた。

そしてここまで来て私は今まであれほど厳しい障壁が設置されてきた理由を正しく理解できた。


不法投棄の山である。

これは酷い。

ちょっと家電ゴミが捨てられているという状況ではない。いずれも正規に処分するなら別途処分費を要する大物ばかりが大量に投棄されている。

奥の冷蔵庫は捨てられて相当経っているし、その手前にある投棄物に至っては全体が雑草に覆われて正体の判別すらつかない。他方、市道寄りに2台転がっているテレビかパソコンのディスプレーらしきものはかなり新しい。殆ど埃を被っておらず最近棄てられたのは確実だ。
地デジ化でアナログテレビが不要になり、処分費がかかるのを嫌気して捨てに来たに違いない。


そういうことだったのか…

認定市道ながら、車が入り込めない程厳しい障壁が2ヶ所も設置されている理由がここにあった。

この場所に限らず公道沿いの不法投棄は日本全国何処でも抱えている問題だ。最近では荒谷ダムを観に行ったとき通った県道196号宮野上佐々並線ではカーブの至る所に粗大ゴミが投げ捨てられていた。

行き止まり市道に面して暮らす住民の気持ちを代弁してみよう。
認定市道であるという、それだけの理由で外部からの自由な侵入を阻止できない。そこに付け込んで不心得者が粗大ゴミを投棄しにやって来る。捨て場所は市道上ではなく自分の所有地である田畑だ。わざわざ別の場所から個人の土地に負の財産を投げ捨てに来るわけで、役所が対処しなければ個人で自己防衛するのは当然だろう。

私が障壁を突破しても制止されなかったのは、たまたま民家の方が不在だったか、私が車をあの場所に置いて歩いて入ったからだろう。カメラだけ持って入る分には不法投棄を疑う余地はない。
私の一挙一動は観察されていたかも知れないし、そうなれば仮に私が車を通すに足りる幅に障壁を退けたとすれば間違いなく誰何されただろう。
したがって障壁が置かれていること自体は自衛策としてやむを得ない状況と言える。ただし不法投棄とは無関係な山歩きの人間まで締め出されるのは問題だろう。人は通れるが車を通すには市から鍵を借りて解錠するタイプの門扉が必要だ。現状では山歩きする人々が怪我をする恐れがある。(実際にこの障壁で大怪我を負った人がいる)もっとも一般市民からすれば「こんな場所で山歩きしなければいい。くだらない事に税金を使うな!」となってしまうのだろうか…
それはそうと、私もそろそろ何故にここまで執拗にこの道の先を求めようとしているか詳しく述べなければなるまい。記事の冒頭では「山の奥にとてつもない物件が眠っている」としか触れていなかった。特段の背景がなければたかが一本の市道である。障壁を突破してまでも先を求める行為について読者の納得を得られない。

これは私の現在位置を中心にポイントした地図である。不法投棄された家電の墓場になっている場所だ。

それまで続いた大きな沢がここで左へ折れ、市道は小さい方の沢に沿って遡行している。山裾を中国自動車道が走っており、市境を仏坂トンネルで抜けている。

上の地図を拡大表示させて若干北側を観てみよう。
地図左上の+ボタンを押しマウスで地図をドラッグする
市道は沢の先端まで遡行し、その先がトンネルのように描かれている。すぐお気づきだろうが、峠の反対側の美祢市側からも同様な道が伸び、同じ方向にトンネルとなっているではないか。

この近辺にあるらしいというおぼろげな情報は把握していた。
これこそが話に聞いていた素堀りの仏坂隧道では?
我が宇部市の奥も奥、一番奥の市境に一体いつ造られたのやらも分からない素堀りの隧道が眠っている(らしい)のだ!

今は”眠っている「らしい」”という表現しか出来ない。実を言うと存在自体は間違いないのだが、私は私自身まだ全く現地で確認していないのである。
去年のこと某氏が美祢市側から現地へ到達し、坑口の様子を撮影した画像を送ってくれた。未確認情報だが、隧道は閉塞しておらず物理的には通り抜け可能だという。
しかし宇部市側の様子はまったく分かっていない。現地への行き方はもちろん何処に坑口があるのかも闇に包まれている。この市道柳小野宗国線は、未確認の宇部側坑口に接近する殆ど唯一のルートなのだ。

私は市道路河川管理課でこの市道の経路情報を取得し、更に地図を眺めて宇部側の坑口がどのあたりにあるかおよその目鼻を付けていた。その予想に照らして市道の向かう進路は些か疑義を差し挟む余地があったが、まずはこの市道の末端までを洗い出すことにした。

こんな奥までキチンとアスファルト舗装されていたのが感心だ。しかし舗装されたきり全く補修されることもなかったようで、雑草が舗装を突き破って我が物顔に振る舞っていた。


不法投棄が問題になる以前からの古いものが藪の中に置かれていた。恐らく農作業などに必要な機材だろう。誰も近辺で耕作しなくなった今ではそれらも顧みられることなく自然へ還ろうとしていた。


両側から藪が路面へ進出しようとしている。ここ数ヶ月と誰も歩いていないのは確実だろう。
寂れた風景とは裏腹に、この辺りから中国自動車道を通る車の音が騒々しく聞こえ始めた。


ここは既に中国自動車道として盛土された斜面の下側にあたるらしい。
路肩に植えられた木々やガードレールが見えかけている。


市道の勾配が再び緩やかに変わり、右手にネットフェンスが見え始めた。
先で市道は右へ屈曲しているようだ。


道路公団の土地につき立入禁止の札が見える。
その先で市道は再び屈曲し、中国自動車道の下をくぐるようだ。


私は中国自動車道の下をくぐる方向よりも左側に聳えるコンクリート壁が気になっていた。素掘りの仏坂隧道が最短距離で掘られているなら、宇部側の坑口はこの近辺になる筈だからだ。
しかしコンクリート壁は極めて高く、登るどころかその上方を眺めることもままならなかった。

道形は明らかだが、コンクリート壁は苔まみれ、アスファルト舗装は至る所雑草が顔を出し、路肩は日当たりが悪いにもかかわらず雑草の生存競争が進行している。
今更だが現役市道とは名ばかりで、廃の匂いが立ちこめていた。


ボックスカルバートに接近する。
まさか閉塞していることはないとは思うが、安泰に通れるのだろうか。いや…通れるとして一体この市道は何処へ向かって行く積もりなのだろう…

市道が中国自動車道の下をくぐって反対側に伸びて行くことに些か納得いかない点があったからだ。

(「市道柳小野宗国線【4】」へ続く)

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