夫婦池・汀踏査【3】

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(「夫婦池・汀踏査【2】」の続き)

アジトを出たのが遅く既に午後4時近くともなればそろそろ切り上げ時だった。
塚穴川を横断して東に向かうと、夫婦池の汀は亀浦市営住宅の背後まで退く。当然踏査すべきところだが、この時間から全く初めて訪れる場所を丹念に辿れるほどの時間はないだろう。
それで今回は市営住宅裏の踏査は見送り、以前一度立ち寄ったことがあるものの充分に踏査していないある場所へ的を絞った。

国道190号亀浦交差点を近回りする地区道を進んでいる。
左側に見えるやや大きな建物は常盤ふれあいセンターである。


センターの手前から左へ入る遊歩道がある。ふれあいセンターの背面はかなり広い芝生の空き地になっている。この遊歩道は常盤池の余水吐付近に出てくる近道になっている。


夫婦池から話題は離れるが、そもそもこの広場自体よく分からない地形をしている。遊び回るには充分過ぎるほど広い芝生地でありながら部分的に傾斜していて、有効利用されているとは思えない。
うねった遊歩道の外側は溝状に低くなっており、水の流れない沢地を隔てて家が並んでいる。かつてはもう少し広い沢だったのを宅地造成などで埋めたのかも知れない。
写真は撮らなかったが不自然な地形が気になって自転車を停めて溝のところまで接近していた

遊歩道は車が通ることができず、場所自体常盤公園からも離れているせいか、歩く人は滅多に見られない。
この遊歩道が高度を下げる部分で奇妙な三叉路に出会う。


地図で示すとこの場所になる。
この道が夫婦池の入り江に向かっているのが見て取れるだろう。


この三叉路から沢を下る道は、地図そのままの現状を表している。即ち思い切り沢を下ったところで行き止まりになっているのだ。そこから先は人が歩ける山道すらないのに、どういう訳か行き止まりの先端部分まで車一台余裕で通れる幅があり、きちんとアスファルト舗装されている。

この場所は3年前、常盤池の余水吐の写真を撮った後に初めて踏み込んでいる。今回行き止まり部分の分かりやすい写真を撮っていなかったので、代わりに3年前の夏に撮った写真を載せる。


溜め池方向に進む道で、行き止まり箇所まで舗装されていながら何処にも繋がらず廃道状態になっている…どういう意図があって先端部分まで舗装しその先が放置されているのか分からないのは、蛇瀬池の南岸にある市道北小羽山4号線と一緒だ。
その市道は既に踏査済み…いずれ移植公開されるだろう

どん詰まり部分から振り返って撮影した今回の写真。
時期柄3年前の夏ほど状況は酷くなさそうだが、草刈りも何もされず放置されているせいでアスファルト路面も少しずつ自然に還ろうとしていた。


3年前初めてここを訪れたときは周囲の充分な観察を行っていない。何処にも通じていないことが分かると、先の行き止まり部分のショットを含めた2枚だけ撮影してすぐ引き返していた。

何故か…?
正直に言おう。
あまりにも気味が悪くて長居したくなかった。
この広場自体は植えられている木が少なく開放的だ。それなのに何故か人があまり寄りつかず何処か寂しげな要素がある。その遊歩道のうちでこの三叉路から先の部分は全く異色だ。
沢を下る遊歩道もきちんとアスファルト舗装されているので、何処へ出られるのだろうかと踏み込む人はきっと居る筈だ。そして3年前の自分も勢いよく自転車を乗り入れた。予想外の行き止まりと、どういう場所なのか全く分からない事実が不安や薄気味悪さを助長させた。状況を知って即刻立ち去りたくても帰りは自転車にはきつい登り坂なのだった…

しかし今となってはここが夫婦池の東岸にある入り江になることが地図からも読み取れる。分かってしまえばそう怖がることはない。だから今回は可能ならここから汀を辿ってみようという考えがあった。

藪の勢いが弱まった季節柄、状況は3年前の夏場よりずっと良い。生い茂る木々が葉を落とし枯れ枝となるだけでも周囲がずっと見渡せた。

そして視野が確保された結果、3年前には全く気づくことさえ出来なかった奇妙なものを夫婦池の入り江部分に見つけた。
何か鉄パイプのようなものが
入り江部分を横切っている。


3年前のときは藪に阻まれてまったく見えていなかった。
いや、もしかするとあのときも注視していれば見えたかも知れない。何しろ薄気味悪さが先立って周囲を充分観察していなかったからだ。


この場所では珍しく夫婦池は底が見通せるほどの浅瀬になっていた。
思えば今まで踏査した場所で池の底が目視できる場所は極めて限られる
遊歩道の端はコンクリート護岸になっており、汀の草地は1.5mくらい低い。何とかなる高低差だろうが、降りるにしても足元が安全で、登り直しが効くことを確認してからだ。

護岸付近をざっと見回したが、容易に登り直せる場所はなさそうだった。
木々の背後に隠れて詳細はよく分からない。水道管のようにも思える。しかし何でわざわざ溜め池の上を通したものだろうか…


ズームで先を探ろうにも手前の藪がピントを奪ってしまうし、既に午後4時過ぎともなれば光量不足できれいな画像を結ばない。
1本のパイプだけではなく何か鋼鉄製の軌道か架台らしきものが数本見える。もっとも水面に反射してそう見えているだけかも知れない。


汀を辿ることを第一に考えると、まずこの場所から右方には全く進める見込みがなかった。藪を避けるにはこのコンクリート護岸を降りなければならないが、そうすると元の場所へ戻って来れない。
しかしあのパイプが見えている左方は、遊歩道が藪へ突っ込んでいる場所から突撃すればコンクリート護岸を降りずに進攻できそうだ。もっともある程度の段差を克服し、なおかつかなり酷い藪漕ぎというハードな作業が必須となりそうだが…

自分としては、汀を辿ることよりもむしろ入り江の上に見つけてしまったあのパイプの正体を知りたくてウズウズしていた。
もう少し近くから観察できれば何か正体を探る手がかりが得られるかも知れない。夫婦池の汀を追跡するという目的からは大いに外れるが、「正体が何か知りたい」というこの種の好奇心は全く厄介なものがある。気にし始めるとどうしようもなくなるのだ。

コンクリート護岸の端は周囲から土砂が流れ込んだせいか、幾分段差が低くなっていた。足元に気をつけてまずはそこをやり過ごし、藪の中に進攻した。
殆どが枯れ枝で、幸い危害を加えるイバラ系は殆どなかった。枝跳ねに注意して身体を押し込み、斜めにしだれ掛かる太い幹をやり過ごして進む。決して楽なタスクではなかったが、少しずつターゲットが視界に近づくのが充分なモチベーションとなった。

数分後、強引な進攻によって謎の鉄管がすぐ近くへ見えるところまで到達できた。ターゲットはすぐ足元だが、接近するにはこの斜面をこなさなければならない。


自分が観て納得するだけではなく、読者の誰もが一目で分かる形で成果を持ち帰らなければならない。さもなければ読者に「これは何ですか?」と問いかけることもできないだろう。

降り積もった木の葉の厚さが半端ない。滑らないよう重々注意しながら斜面を降りていった。

時刻は既に午後4時を回っているので幾分暗めの写真となるのは仕方ない。
これがパイプの正体だ。


パイプは単純な鉄管で、直径は30cm程度。6スパンで入り江部分を渡っているので総延長は25m程度だろうか。
H鋼を並べて造った架台に載せられていて、重みに耐えるよう夫婦池の中にコンクリート基礎が拵えてあった。

パイプもH鋼も部分的に錆び付いていた。表面の状況からして錆び止めなどを塗った形跡がなく、生きた現役の鉄管かは分からない。しかしコンクリート基礎は割れや欠けが見られないことからそれほど古いものではなさそうだ。


鉄管は全く単純に両岸の途中から顔を出し入り江の上を渡されていて、桝などは見あたらない。
2箇所のフランジで接合されており、水道の本管などによく見られる空気抜きバルブなどはなかった。


真正面からのショットを見ると、管の上を平均台の如く渡りたくなる方がいらっしゃるかも知れない。現地の私も一瞬、そんな考えが頭を過ぎった。

もちろん即座に否定した。万が一落下しても底が見える程度の水深だが、この上を歩いて渡ろうとして落下する確率は「万が一」どころではない。しかも自転車を置いている場所まで戻るなら往復が必要で、落下確率は倍になる。そこまでリスクを取りに行く意義が感じられない。
この鉄管の正体は何?
夫婦池の汀を辿るのが主眼なのでここでは写真と状況報告のみに留めてこれ以上は立ち入らない。
もっとも後で別の形で姿を現すことになるのだが…
そうは言うものの現地の私は一つの大きなモチベーションが遂行されたので、これだけで相当に満足してしまったのも事実だった。

念のために鉄管から更に汀を辿ることを試みた。
入り江部分は徐々に幅が拡がっていて、池の底もやがて見えなくなった。そして程なくして進攻自体が困難になってきた。


この場所から可能な限り水面に接近して写した夫婦池。
黒々として押し黙った水面はやはり重々しく不気味な印象を醸し出していた。拡大対象画像です。
画像にマウスをかざすと拡大、ダブルクリックで最大化します。
クリックすれば元のサイズに戻ります。


木々の間から見える水面に石炭記念館の赤白が反射していた。


ここで引き返した。
暗くなると写真の品位が落ちるし、正直自転車を置いた場所からかなり無理をして進攻していたので、安全に戻れるか若干心配していた。そして最後にコンクリート護岸を登って自転車の元へ戻るのにかなり苦労した。

この場所で見つけたものと私が歩いた経路を図示すると以下のようになる。赤い線が私の歩いた経路だ。
左上に描かれた経路は、この連載の冒頭「夫婦池・汀踏査【1】」で試みた区間だ。
この図は更に書き加えられて再登場することだろう


地図では等高線が一本走っているだけだが、 で示されるどん詰まりの廃道部分はかなりの下り勾配であり、同様に等高線の描く法線方向はきつい傾斜地だ。地図中2つの×印は直線距離で50m程度、汀を辿る経路でも100m程度。しかし往来不可能どころか、相互に見通すことすらできない。

急な坂を漕いで三叉路まで出て左に曲がり、余水吐の方に向かった。
西へ沈みかけた太陽は、この広場の大半を影の領域に変えていた。


そこから市道へ出てアジトを目指す積もりだったのだが…
この遊歩道沿いにある荒手と呼ばれる排水路をちょっと覗いてみた。初めてこの遊歩道を通ったときは全く寄りつきならない程の藪状態だったが、冬場で藪が薄く接近可能だった。

自転車を停めてここから眺めていたとき、考えが変わった。


時系列からは継続しているので寄り道記事として案内しておきたい。
派生記事: 常盤池・荒手【1】
一連の踏査を終えてアジトへ戻ったのは午後5時過ぎだった。

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さて、ここまで夫婦池の連載記事を書いている間に一読者から極めて有用な情報が寄せられたので、今後の踏査方針も含めて継続記事として次章に紹介しようと思う。

(「夫婦池・汀踏査【4】」へ続く)

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