《 概要 》
藤山区中山にある中山浄水場の見学を主体としたプログラムである。宇部市水道局の協力を頂き、普段は入れない中山浄水場で上水ができるまでの過程を水道局の担当者が、中山浄水場の前身である沖ノ山水道など歴史的題材の解説を宇部マニアックスが行う、初めてのコラボ企画である。募集時の概要は以下の通り。
開催日時 | |
---|---|
集合場所 | 中山浄水場![]() |
参加費 | 500円 |
定員 | 20名 |
【 プログラム化されるまでの状況 】
2024年春の栄川と鍋倉山さんぽは内容がマニアックに過ぎたこと、主要な目的地やコアとなる題材が明確でなかったため募集開始時から出足が低調だった。これに加えて一週間前から当日のみ雨予報で、数日前に悪天候をみてキャンセルも出たため過去最低の参加者数となってしまった。雨降りは不可抗力であり致し方ないとして、秋の開催もどのみちまた雨に祟られることを予想したので天候に左右されないプログラムを企画したかった。行き先を現役施設に限定し、場内を参加者自身の足で歩いて頂く運動的要素を加えた。中山浄水場を選定したのは、宇部市に初めて近代的な上水道をもたらした沖ノ山炭鉱による貴重な歴史資産であり、現在も宇部市街部に上水を供給していることに依る。一般的な浄水場としては厚東区にある広瀬浄水場が代表的で、水道週間に見学会が実施されるが中山浄水場は対象外である。
中山浄水場は沖ノ山水道時代から続いている緩速濾過法により上水を作っている。緩速濾過法を援用した浄水場は全国でも少なくなっており、更に中山浄水場は沖ノ山炭鉱が建設して今年でちょうど100年目にあたる。六角堂や旧桃山1号配水池監視廊入口と共に、国の登録有形文化財レベルに貴重な構造物と言える。
こうした重要な歴史的背景があっても全くの思いつきから飛び込みで水道局に企画を持ち込んだのではない。数年前、市上下水道局時代に水道モニターを引き受けており、水道局の出入りがあって担当者に中山浄水場の見学について以前から見学したいとの下話をしてあった。既に水道モニターは制度自体がなくなっているものの、担当者とのコンタクトは容易にとれた。そこで2024年春に開催されたときのスポーツうべたんのパンフレットを持参し、中山浄水場での解説プログラムが可能か相談している。
場内を解説しながら歩くとどれ位の時間になるか下調べするため、7月に現地担当者の随伴で場内を見学した。このとき新川歴史研究会の高良氏も興味を示し、場内見学に同行している。なお、イベント実施時に提示したモノクロ写真は、関係者に配られた高良家文書の一つである「沖之山水道」から抜粋している。
場内はかなり広く、逐次見学して歩けば相当な距離になることから運動的要素は満たしている。桃山配水池や更に先の六角堂まで歩けば水の流れが明確に理解できるが、斜路を登るのは非常にきつく距離も伸びることから今回は見送り、中山浄水場内だけの見学プログラムとした。この企画書をまとめてUSCと水道局に提出し承認を得てプログラム化された。
【 プログラムのネーミング 】
”大人も社会見学”という奇妙なネーミングは、一部の方なら予想されるように山口ケーブルビジョン「にんげんのGO!」の単発企画として放映された「大人の社会見学」のオマージュである。一般に社会見学と言えば小中学校の社会科の屋外活動授業として実施される。元々は子どもたちの活動であるが、大人も同様に社会見学して勉強しようという意味を込めている。《 プロモーション 》
パンフレットの表紙。該当プログラム。
2024秋編は全部で10のプログラムが予定されている。近年の傾向としてはパートナーが単発で企画することが少なく、春も秋も集客力が強く魅力的な体験を提供する若干のパートナーによるプログラムが多い。特に人気のプログラムは参加者人数の上限が20名でありながら募集開始当日には予約締め切りになるものがある。
なお、2022年春に開催されて好評だった白岩公園探索とほぼ同一内容のプログラムがパートナー百笑家さんから募集されている。
こちらの開催日は11月24日である。
百笑家とは白岩公園に至近の場所にお住まいで、前回のプログラムでぜんざいと果実ジュースの接待を頂いた方の屋号である。2022年開催時より集合場所がやや離れている分、実施時間を前回より30分長く確保している。白岩公園での案内や解説は宇部マニアックスが行う予定である。
(プログラム実施後にこの項目を総括記事から分離して別途作成する)
【 現地アクセス 】
集合場所は中山浄水場で、通常は正門が閉められているか開いていても関係者以外の入場はできない。見学イベント開催当日は私を含めた関係者が中山浄水場入口と正門付近に待機して参加者を誘導する。スマホをお持ちの方は Google map で中山浄水場で検索すれば現地の地図が表示される。このホームページを閲覧できるがスマホ検索が難しい方のために、現地周辺の地図を掲載する。
黄緑色が県道琴芝際波線で、そこから南へ下る道(市道上条金山線)を進み、赤い地区道に入る。
(この重ね描き経路のGeoJSONデータは こちら

市道上条金山線を南から来る場合、国道190号藤山交差点から藤山小学校方面に進み、最初の斜めの十字路で右折して西宮八幡宮の横を通ってフロンティア大学の横を通り過ぎる。上の地図では桃山配水池と六角堂を描いているが、位置関係を示すだけで桃山配水池から直接中山浄水場へ行くことはできない(車のみならず徒歩でも不可能)ので注意されたい。
地区道入口にこのような中山浄水場関連の標識が立っているので、この一本道を奥まで進むと中山浄水場である。
車以外の交通手段としては、県道の中山バス停で降りて徒歩で十数分の距離である。
《 実施状況 》
前掲のように、本プログラムは11月2日の実施だったものが台風襲来によって12月7日に延期された。参加申込者は定員一杯だったことから日にちを再設定した、USCからは12月7日と14日が提示され、中旬になると忘年会などのイベントに重なる可能性があることから7日に設定した。申込者は全員が7日で再申し込みしていた。約2週間前に現地案内役として参画した白岩公園の散歩イベントは快晴だったが、中山浄水場は宇部マニアックスによる企画なためかまたしても週間予報では当日雨(降水確率50%)だった。もっとも当日快晴になることはまずないことを半年以上前から予想して天候に左右されない本企画を立案していたので、よほど酷い天気でなければ傘を差してでも実施する予定だった。その後当日の降水確率予報が下がった代わりに厳しい冷え込みが予報された。前日の予報では当日曇りとなった。
開始30分前には現地入りして受付場所の設営と幟の設置を行った。水道局の職員は3人が随行した。
天気は晴れ間が広がったが、当日は午後からの開始ながら12月入りして最大級の冷えに見舞われた。
このためすべての参加者が開始まで乗り入れた自家用車で待機していた。
中山浄水場への行き方が分からないなどの問い合わせが若干あったが、最終的に参加者すべてが揃った。管理区域内での実施であり、写真撮影に関して若干の情報提供が行われた。USCからも撮影した写真を実施報告書やイベント案内に掲載する旨の案内を行い、撮影不可の参加者は居なかった。このため当サイトでも人物が特定できない程度に離れた位置からの写真を撮影している。
実際に上水道ができる流れに沿って、最初に着水井に案内された。
写真は末信水源地からの伏流水が到着する場所。
着水井は夾雑物を除去する極めて珍しいレンガ積み構造がみられ、同じものはかつて厚東川1期工業用水(1期水)から灌漑用水を取り出していた分水部分に存在していた。改修後に取り壊され現在では恐らくここにあるものが唯一である。
(将来的に長溝用水の項目を作成した折に記述する)
当日は水質と河川水量の関係で、伏流水を停止し1期水を濾過池に導いていた。このため普段は満水位で水没しているレンガ積み構造を詳細に観察することができた。
(下見に来たときは黒いカバーが掛けられ満水だったので撮影できなかった)
構内のやや高い場所では日差しもあり幾分暖かだった。この辺りは歴史的題材よりも実際の施設を見た方が興味深いので、参加者が思い思いのペースで各施設を見学するのを見守っていた。
「沖之山水道」には、中山浄水場の着工前や建設時の状況がモノクロ写真で掲載されている。ほぼ同じ場所に立って写真を掲示しながら参加者に歴史的題材としての解説を行った。最終工程の検査室まで見学したが、ゆっくり歩いて回っても所要時間は1時間と少しで2時間枠では充分な余裕があった。日差しに乏しい集合場所は相変わらず寒く、参加者にアンケートを記入してもらってお土産のボトル備蓄用水を渡して終了となった。
【 参加者のレビュー 】
実施日の翌日にUSCから参加者のレビューがメールに添付されて送られてきた。なお、参加者は18名だったがアンケートの回答は8名にとどまった。中山浄水場という場所柄、集合解散時に待機できる場所がなく、また当日は気温が低かったため終了後早々に退出した参加者が多かったためである。アンケートの回答にある選択肢には「大変良かった・良かった・普通・やや悪かった・悪かった」の5つがある。無記名とは言ってもよほどの不手際がない限り「やや悪い」以下を書いて提出する参加者はないので、ここでは評点よりも自由回答に着目したい。
今後どのようなプログラムに参加してみたいですか?
・普段入れない所に入れるプログラムが良い
・施設や工場の見学をしてみたい
・船木の古道と街並み
・下水道(玉川ポンプ場)
・宇部花火大会の裏側を見たい
・お菓子づくり、スポーツ選手OBの方とスポーツイベントがあれば参加してみたい
・桃山配水池を見てみたい
現地では終了時に今回のような普段入れない場所の見学として、上水道に対して下水道を例示してこの種のプログラムに参加してみたい方の挙手を求めた。このとき数名の手が挙がったので、関係方面に打診して可能であれば来春のプログラムに反映したいと答えた。・普段入れない所に入れるプログラムが良い
・施設や工場の見学をしてみたい
・船木の古道と街並み
・下水道(玉川ポンプ場)
・宇部花火大会の裏側を見たい
・お菓子づくり、スポーツ選手OBの方とスポーツイベントがあれば参加してみたい
・桃山配水池を見てみたい
玉川ポンプ場は、建設中に地元住民の説明会と観光コンベンション協会による見学会が開催された。また、山口ケーブルビジョン「にんげんのGO!」の”大人の社会見学”シリーズで隧道題材を兼ねてロケを行っている。現在は供用開始されているため排水管渠内部の見学は当然不可能で、汚水処理の建屋のみとなるだろう。
桃山配水池は六角堂とセットで見学プログラムを実施可能である。六角堂は市道上にあるので大人数だと実施が難しいが、今回のように上水道の職員随伴であれば内部を観ることができるだろう。なお、旧1号配水池監視廊入口や3号配水池(展望塔)は日曜日であれば予約なしに入場見学可能なので、プログラムとして実施するにはプラスアルファが必要である。
この他にいくつか「大人も社会見学・第2弾」の候補となりそうな訪問先施設がある。「にんげんのGO!」の”大人の社会見学”で訪れたような場所は、再度の交渉で見学可能となる可能性が高い。ただしそのうちから見学の危険度と参加者が場内で撮影することの制約が低い候補地から選定する。
次にアンケート末尾にある自由回答について。
その他気付き
・とてもよかったです。勉強になりました。配水池も見たかったです。見学がもう少しゆっくりでしたら更によいかと思います。
・子供さんも一緒でほのぼのとして良いと感じました。
・テロ(ドローンで濾過池へ毒を入れる等)があったらたいへんな事になりますが、監視カメラの設置等の対策は必要ないでしょうか?
桃山配水池まで歩いて往復するのは大変だが、登山ほどの体力は必要としない。仮にプログラム化するなら3時間枠を見込んでおく必要があるだろう。集合場所を桃山配水池側にしても現地アクセスや受付などの作業性は同等なので、水ができる流れにしたがって中山浄水場集合が妥当だろう。・とてもよかったです。勉強になりました。配水池も見たかったです。見学がもう少しゆっくりでしたら更によいかと思います。
・子供さんも一緒でほのぼのとして良いと感じました。
・テロ(ドローンで濾過池へ毒を入れる等)があったらたいへんな事になりますが、監視カメラの設置等の対策は必要ないでしょうか?
濾過池などに毒を投入する懸念を書かれた方があった。実際はドローンを使わなくてもガラス瓶などに猛毒を封入して投擲すれば、ドローンを使わず実行可能である。しかし歴史的にみて濾過池に毒が投入されて深刻な事態に陥った記録はない。むしろもっと日常で頻繁に起きる交通事故で取水停止が起きてしまうことを心配すべきである。
国道2号の吉見峠越えの途中にある急カーブでは頻繁に大型トラックの転落事故が起きており、タンクローリーが転落して油が直下の丸田川に到達してしまったことがあった。こうなると厚東川の伏流水や表流水を採る末信水源地と広瀬浄水場向けの末信潮止井堰からの取水が停止する。ただし厚東川1期工業用水を介してダム水の取水が可能であり、山陽小野田市側から厚狭川系工業用水の代替経路もある。工業用水は産業と生活に直結する極めて重要なライフラインであるため、このような非常事態が起きたときを考えて多条化されている。
供給する上水は水質検査にサンプルが供給され、一週間連続で保存される。この段階で異常があれば検出される。広瀬浄水場では取水された表流水と供給する水道水の一部を実際に魚の泳ぐ水槽に導くことで、生体に変化が起きないかのチェックが行われている。
(写真は2019年施設見学時での撮影)
最終的に上水を貯留する貯水池は特に厳重に管理されており、特に気圧を調整する換気口などの毒物投入可能な開口部が容易にアクセスできる場所にない。貯水池に設置されているステンレスの蓋は極めて堅牢に造られている。
それ以前に、着手しても凶悪犯罪者として重罪に処せられるだけで何のメリットもない行為が起きる可能性は低い。精々、濾過池などに飛び込んで泳ぐなどの悪ふざけをする程度である。子どもの頃に水源地や濾過池で泳いだという話は、昭和中期頃まではかなりの事例を聞いている。[1] セキュリティーシステムが導入されている現在では、事前承諾のない部外者が管理区域内へ侵入しただけで検知されるだろう。
《 今後対処を必要とする問題点 》
まったく初めての試みなので、実施した後になっていくつかの改善を要する点がでてきた。自己分析すると以下のようである。
(1) 集合場所が分からず迷う参加者が散見された。
(2) 参加者の受付とアンケートの記入および回収が困難だった。
(3) 子ども連れの参加者が多く、危険な場所への接近に配慮が必要である。
(4) 参加者の先頭と末尾がばらけてしまった。
(5) 2時間枠では浄水場構内のみの見学では時間が余ってしまう。
すべての参加者が自家用車で来訪した。クルマにナビを導入している参加者が多く、中山浄水場と入力しても巧く案内されなかったり枝道を見逃してしまう人があった。企業局の中山分水槽に隣接していた中山第2浄水場(廃止され取り壊されている)と間違えて現地に行ってしまった方もあった。ただしスマホで連絡されたとき応対して最終的に参加者全員が中山浄水場に入場できた。(2) 参加者の受付とアンケートの記入および回収が困難だった。
(3) 子ども連れの参加者が多く、危険な場所への接近に配慮が必要である。
(4) 参加者の先頭と末尾がばらけてしまった。
(5) 2時間枠では浄水場構内のみの見学では時間が余ってしまう。
申込者の上限を20名に設定していたが、ほぼ満席状態で開催された。このため20人近い参加者が説明を受けながらぞろぞろ歩くこととなり、特定の場所をじっくり観たくても先頭集団から離れ過ぎてしまう場面があった。また、人数が多いと子どもが危険な場所へ近づいてしまうのが見逃されるリスクが生じる。施設は見学向けにできていないので、濾過池などの柵は大人なら問題なくても背の低い子どもだとすり抜けて転落してしまう可能性がある。確率は低くても万が一が起きればこの種の企画が以後実施不可能になるだろう。こういったリスクを取り除く配慮は企画立案する側が行うべきである。
これらの問題を解消するために、もし来年度実施するなら以下の部分が改善可能かUSCと浄水場側に打診する予定である。
・募集人数を20〜30名にする代わりに10名を1グループとして複数回実施する。(午後1時スタート、午後2時スタート…のように設定する)
・桃山配水池と六角堂までをプログラムに含める。
中山浄水場に限らず、散歩系や見学系のプログラムは10〜12名をグループとする方が良い。これを超えると参加者の列が縦に長く伸び、後ろの参加者は声が聞き取れないなどの問題が起きやすくなる。調理室や体育館など指導者の下で何かを作ったり運動したりの場合は多人数の同時進行でも問題ない。ただし10人1グループの複数回実施だと、パートナーをはじめ関係者の拘束時間が長くなる。同じ時期に実施した白岩公園のプログラムは参加者が12名で、散歩系では一緒に歩いて解説し、個別の質問に対処できる上限のように思う。・桃山配水池と六角堂までをプログラムに含める。
実施時間を延ばせば桃山配水池と六角堂を含めることは可能である。中山浄水場の裏手にある押し上げ管路は管理区域外であり、特に桃山配水池近くまでは市道および地区道なので上水道職員の随伴は要らない。中山浄水場裏の門扉を解錠してもらい、配水池まで歩いて六角堂と桃山配水池の解説を別の職員にお願いできれば急な管路の往復に同行させずに済む。
今回のプログラムは荒天のせいで実施が12月上旬にずれ込んだ。中山浄水場自体が谷地にあり日照が少なく冬は寒い。このプログラムは秋よりも春に実施した方が良いかも知れない。
《 関連記事リンク 》
出典および編集追記:
1. 昭和19年夏の旱魃で末信水源地まで海水が遡行し取水不能となったとき、海水が浸入した水源地で泳いだという記述がある。「宇部の水道」p.167
十数年前に金山地区を訪れたときたまたま出会った土地所有者から子どもの頃中山浄水場の濾過池で泳いだという話があったと思う。
1. 昭和19年夏の旱魃で末信水源地まで海水が遡行し取水不能となったとき、海水が浸入した水源地で泳いだという記述がある。「宇部の水道」p.167
十数年前に金山地区を訪れたときたまたま出会った土地所有者から子どもの頃中山浄水場の濾過池で泳いだという話があったと思う。