市道常盤公園岡ノ辻線【1】

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現地踏査日:2014/2/12
記事公開日:2014/5/28
認定市道は、一体どのようにして誕生するのだろう…
公共性が高い国道・県道以外で市が管理する道はなべてそのようになる…と言ってしまえば、一応は正当な成り立ちの根拠となり得るだろう。
しかし中にはそうではない市道もある。車どころか今では殆ど人の往来もない山道だったり、車は通れるが行き先や容態がおかしげな道だ。そして往々にして私の目に留まりやすいのは、一口に言って「マトモではない」風貌を呈している市道だ。あまりに整然として車が何事もなく通過していく市道は、道路として極めて全うな職務を遂行しているが故に面白い題材とはなりづらい。雑然とした、奇妙な、変な、荒れた、経路が特徴ある…等の素因を持つ市道がしばしば取り上げられる。市道常盤公園岡ノ辻線はその意味では「まったく申し分のない路線」である。

路線名からも起点が常盤公園付近にあって終点が岡ノ辻ということは推測されるだろう。常盤公園を含む他の認定市道として常盤公園開片倉線常盤公園江頭線などが存在する。いずれも常盤公園の正面玄関口付近に起点を持つ。他方、これから追跡する常盤公園岡ノ辻線は同じキーワードを含みながら起点はまったく別の場所になる。
それが具体的に何処になるかは、大いに勿体ぶって今の時点では語らない。ついでに毎回提示する起点の位置を示す地図も省略するし、今回は例外的に終点側から辿ることとする。何故そうなのかは…勘の良い読者ならもうそれだけで何か尋常成らざる要素を感じとったかも知れない。


まず終点の写真くらいは提示しなければ話が進まない。
岡ノ辻のこの場所である。終点側に有料道路仕様の看板が立っているここが本路線の終点となっている。


いわゆる「山口宇部道路」の岡ノ辻にあるT字路である。終点付近には山口宇部有料道路から「有料」の文字を抹消した看板が設置されている。
文字が抹消されていない有料道路時代の案内看板の写真はこちら

このT字路には特に名前は付けられていない。有料道路時代から既に存在はしていたが、岡ノ辻にはこれより古いハーフインターチェンジが存在し、ときに岡ノ辻I.C.などと記載されている。
山口宇部道路の方からの参照も予定しているので派生記事にまとめておいた。
派生記事: 山口宇部道路とのT字路
本路線の終点となる場所を中心にポイントした地図を示そう。


全体を容易に俯瞰できないようわざと拡大モードの地図を載せている。このT字路から伸びる道と言えば一本しかなく、地図をドラッグすればその先行きに何があるかは容易にネタバレしてしまうだろう。
そして読者の期待通りの顛末を辿るためにも終点からスタートしよう。

山口宇部道路との取り付け部分の歩道に美化ピカロードの表示板が設置されている。
歩道が草ぼうぼうなので草刈り後の写真に差し替えている…訪問時点ではこんな状態だった


本来ならこの市道は以下の写真を持って「終点が見えてきた」となるわけだ。
終点側の大沢西交差点に向いた角地に何やらフェンスで囲まれた竪坑のようなものが見える。


山口宇部道路側からも参照しているがこちらに記事を書いた。
派生記事: 山口宇部道路を横断する謎の地下通路
スタート直後からかなりきつい登り坂になる。歩道は充分に広くインターロッキングで整備されているが、ギアチェンジ付き自転車でなければかなり厳しい。
自転車にとってインターロッキングは転がり抵抗が大きくあまり優しくない


別にこの程度の坂なら途中で降りず一気に登ってしまうべきなのだが(そうなのか?)写真を撮らなければならないので途中で降りて撮影している。


反対側から撮影したところ。この方が勾配のきつさが分かりやすいだろう。
変則ギア付き自転車なら何とかなるかなーという限界の勾配だ。ママチャリなら多分無理だろう。


岡ノ辻は常盤池の形作る沢と江頭川の刻む沢の間にある尾根に位置する。そして岡ノ辻から東側の斜面は急傾斜地が目立つ。特に本路線の一つ北側にある市道岡ノ辻新浦線は山口宇部道路の上を跨道橋でやり過ごした後、そこからこの高低差を子落とし坂なる猛烈な坂道によりこなしている。本路線では山口宇部道路までの接続とは言え、深く考えず一本の直線的下り坂で処理してしまっているのだ。如何にも車の登坂性能が向上した昭和後期以降に造られた道らしい。
それでも山口宇部道路まで下れば済むのだから子落とし坂より高低差はずっと小さい

少しずつ登り勾配が緩んできた先に案内看板が見えてきた。


常盤公園は左折、直進は超高温材料研究センター、左折にココランドが案内されている。
ココランドのところだけ新しいのは、旧厚生年金センターと記載されていたのを書き換えたからだ。



高台に上り詰めたところでメインの道と交差する。
市道丸山黒岩小串線で、亀浦から北上する昔からの道である。


既に公開済みのこの市道レポートへ乗り換えるには以下のリンクを辿られたい。
派生記事: 市道丸山黒岩小串線|市道常盤公園岡ノ辻線の交点
市道丸山黒岩小串線は亀浦で国道190号を横切り、そこからはなだらかな丘陵部の一番高い場所を尾根伝いに進んでいる。周防と長門の国境は黒岩付近までは概ねこの市道上を通っていることが知られている。その国境ラインは宇部村と西岐波村との市村境界でもある。

恐らく自然に理解されるように、本路線はここを直進する。市道丸山黒岩小串線が尾根伝いに通っているので、直進すれば今度は常盤池に向かっての下りになる。
実際の車の流れでは山口宇部道路を右左折して本路線の坂を登ってきた車は当然のようにここで右左折し、直進車が殆ど見当たらない。すぐ近くにある県営住宅ないしは新興住宅地に入る車だけだ。

さて、メインの道を横断する。
車通りはないが道路規格としては幅広の自歩道と対面交通幅の舗装路でそう変わってはいない。幅広のインターロッキングによる歩道は、むしろ終点付近よりもよく手入れされている。


進行方向左側のアパート群は、常盤台県営住宅である。
既に公開している派生記事にリンクしておく。
派生記事: 常盤台県営住宅
県営住宅の端からは常盤池が見える。この階段を降りることで常盤池の周遊園路に向かうことができる。
ウォーキングで通る人が結構ある


さて、この先行ったことがある方にはきっと想像つくだろう…何とも言えない状態になっているのである。

県住を過ぎると暫く新興住宅地の中を進む。市道ではなくまるで地元管理の道のようだ。進行方向左側のインターロッキングによる歩道は健在だが、道路の方はセンターラインがなくなっている。
実は当初は引かれていた…放置されたため薄くなっただけ

やがて住宅が少なくなり、左側が企業団地になる。
何社か入っている現役企業の入口通路の前に駐車禁止区間の終了を示す標示が出ていた。


この辺りからまず歩道の植樹帯から綻びが現れ始める。
元より植樹帯は雑草が多くあまり手入れされた風がないのだが、最後の企業を見送った先から草だらけになっている。


右側に最後の民家を見送ると、何とその先には単管バリケードが2つ横並びに設置されていた。
車の通行は元からなかったがこの場所にて完全に進攻不可能となる。


もっとも単管バリケードはその場に置かれているだけで進入禁止にはなっておらず、その横や歩道から先に進むことはできた。相当前から置かれていたようで単管バリケード自体錆び付いている。
先がどうなっているかは…進攻するまでもない。道路側溝の蓋も隠れるほど横から雑木が進出しているし、先の様子はここからでも窺える。


しかし期待通りの結末を得るためにこの隙間から自転車を押し歩きした。

道路幅員は変わっていない。それどころか当初はセンターラインをキチンと引いたらしく痕跡もみえる。
道路敷の外側がすぐ山野となっている進行方向右側の荒れ方が特に酷い。


分かっていても一番奥まで進んでしまう。そして宣言…
進攻不可能。


単管バリケードがあるから間違って侵入し突っ込んでしまう車など有り得ない。しかし最後の砦とばかりに道路方向に対し直角にガードレールを設定していた。
夜間でも対処可能なようガードレールには反射鏡も付属している。しかし橙色をしたその反射鏡さえもよく見えないほど木が生い茂っていた。

いつものように「終点から振り返って撮影…」というわけにはいかない。
終点から進攻したとき曲がりなりにも道が存在する場所からの撮影だ。


現状が分かるように末端部の写真を追加しておいた。
派生記事: 通行不能地点の詳細
このガードレールから先はどうなっているのか…本当に道はないのか?
後で細かなことは検証するとして結論から言って存在しない。恐らく当初からこの先に道路を造る予定さえもなかったのだ。
一体、どうしてこんなことに…
毎度のことだが本路線の動向は当初から市道路河川管理課の地図を閲覧した時点で分かっていた。起点が何処にあるか、どういう経路で計画されているかも把握している。そこで起点が何処にあるかを示すと…これがまた突拍子もない場所なのであった。

この場所に見覚えはあるだろうか?


ずっと前に公開した市道丸山黒岩小串線の途中、常盤スポーツ広場バス停から旧道と新道が分岐している。あの付近である。この近辺が本路線の起点として設定されている。確かに常盤公園のある場所とは言えるにしても、進攻不能となった地点からは直線距離でも1kmくらい離れている。

地理院地図の上載せ情報機能がサイトごと廃止されてしまった[1]ので、申し訳ないがYahoo!の地図を拝借して直接路線を書き込んだ。
現在いる進攻不能地点よりずっと北方の●印が本路線の起点である。


起点からの経路は…非常にアバウトだ。市道路河川管理課の保有するゼンリン© の地図でもピンク色の蛍光ペンで未成線を示す破線が適当に描かれていた。上の図では橙色の破線が未成区間に相当する。この近くには常盤公園の周遊園路が既に存在するのだが、計画線は周遊園路とはまったく一致していなかった。
細いピンク色の線で記載された区間が車道として存在はするが単管バリケードで通れなくなっている部分だ。結局、太いピンク色で描かれた部分だけが実際に車で走行可能な区間である。もっとも市道丸山黒岩小串線以西は新興住宅の住民や企業団地に入っている関係車両しか通らないから、一般向けとしては先の十字路から終点までの300m程度だけが活用されていることになる。

起点の場所へワープする派生リンクを一応示しておこう。まあ、そこへジャンプしたからとて本路線の痕跡も何もないのだが…
市道としての道がないので本路線についての言及もしていない
派生記事: 市道丸山黒岩小串線|市道常盤公園岡ノ辻線の起点
何が怪しいかと言われて、この計画部分の橙色破線で示されたルートをおいて他にない。地図の薄緑色で着色された部分は常盤公園としての領域である。特に宇部自動車学校の横を通る付近は江戸期から昭和期にかけて石炭を掘削したタブ穴の痕跡が多数存在する。平成初期に周遊園路を新設するときですら相当な配慮があったものを、そんな場所に車がガンガン通る道路を新規に造れる筈がない。
施工技術的にも大きな疑問がある。地図では陸地として描かれているが、宇部自動車学校の南側はかつて東條の入り江であり、採炭が行われていた場所だ。ガードレールの行き止まり地点からの高低差が10m以上あり、道を通すなら広範囲に盛土が必要である。しかも元々は常盤池だった場所だから、車を通すなら広範囲な地盤改良が要る。計画線の段階とは言え、常盤池の中を通っている唯一の認定市道とも言える。

この市道の先行きだが、当初計画通りに全線開通し供用される可能性は万に一つもないと考える。道路状況こそ狭いし良好とは言い難いが市道丸山黒岩小串線で充分に足りている。本路線の未成区間が造られたとしても常盤台県営住宅のところで直角曲がりとなり、バイパスとしての効能は殆どない。素人目に見ても本路線の全通が有り得ないことが理解されるため、この市道の成立、特に計画の策定に関して些か疑念を感じてしまう。
企業誘致だけを目的に市道整備したのでは…
この市道の特定区間自体は決して無駄な道路ではない。市道丸山黒岩小串線と山口宇部道路を連絡する区間は利用価値が高く、一般車両の通行が極めて多い。しかしそうなら普通は両者を接続する区間のみ認定市道とし、市道丸山黒岩小串線以西は企業管理の道とするものである。実際には企業団地への進入路部分が含まれるのみならず、その先の建設されるあてがない部分まで計画線として指定されていた…

穿った見方をするなら、実は当初から本路線を全通する計画などなかった…しかし市が整備した工業団地へ企業誘致するために公費で道路を整備する必要があった…工業団地への往来に限定した認定市道を造るのは何かの制約によりできなかったために形式上の起点を設けて市道常盤公園岡ノ辻線という路線を造りあげた…なんて塩梅ではないだろうか。実際のところどうなのか一般市民が知ることはできないだろう。

したがって市道浜中山線のときと同様、ありもしない未成区間を正確に辿ろうなんてのは全くの無駄骨である。適当にとってつけたような経路を設定されたために、実際正しく辿ろうにも道を外れてはぐれてしまうのがオチだ。そして奇しくもこの市道の整理番号には890(ハグレ)番が与えられているのであった…
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さて、本路線としては道路が形を成していないためこれ以上起点に向かって辿りようがないのだが…
もしかしてこんな興味が沸き起こった方があるのだろうか。
行き止まりになっているガードレールの先はどうなっているの?
もしかすると本当にこの先へ道路を造る計画があって、測量杭などが設置されているのでは…という考えは現地踏査した私自身にもあった。

目視でも分かるようにガードレールの外側は酷い藪である。ハグレる心配はないと思ったが、進攻するにも時期を選ぶ。それで難易度が下がる秋口を狙ってこの先を辿ってみた。一応、本路線の続編として作成している。

(「市道常盤公園岡ノ辻線【2】」へ続く)
出典および編集追記:

1. 電子国土サイトが地理院地図としてリニューアルした後、新規作成はできなくなったものの従来の上載せ機能は使えるようになっている。当初は以下のような上載せ地図を埋め込んでいた。


地図上のAはガードレールのある行き止まり地点を示している。新規に同様の地図を作成するにはツールが準備されていないようである。

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