宇部丸山ダム

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記事作成日:2021/8/15
最終編集日:2021/9/3
情報この総括記事は内容が古くなった旧版をコピーして再構成の作業中です。まだ完成しておらず読みづらいかも知れません。旧版は こちら にありますが、編集追記は行わず将来的に削除します。

宇部丸山ダムは、厚東川の支流の一つである2級河川薬師川の下流に造られた利水目的のダムである。
写真はダム下の公園からの撮影。


位置図を示す。


厚東川の上流にある厚東川ダムが県の直営であるのに対し、宇部丸山ダムは県企業局の管理である。母体はどちらも県でありながら事務所は全く異なるので、ダムに関する問い合わせを行うときは注意を要する。県のサイトでは企業局のダムとして概要が掲載されている。

正式名称は宇部丸山ダムであるが、県内近辺に同名のダムが存在しないことから丸山ダムと呼ばれることが多い。この記事でも以下では特段の断りがない限り丸山ダムという呼称で統一する。
《 概要 》
丸山ダムは二俣瀬地区の大字瓜生野字丸山に存在する利水目的のダムで、増え続ける工業用水需要を賄うために建設された。当初は水需要を賄うために厚東川ダム堰堤の嵩上げが計画されたが、下小野など居住者の多い地域が水没するためこの案は撤回された。代替手法として、厚東川ダムより西側の尾根一つ隔てた丸山地区にダムを建設し、ダム湖底に圧力隧道を造って実質的に小野湖の拡張部分を造る手法が採られた。県内に同種のダムは他になく、この手法は「高度な水運用」と評されている。

厚東川は古くから宇部市の水がめであり、利水・治水・水力発電を行う厚東川ダムが古くから知られていて小野湖も一般に開放されていることから、厚東川ダムの知名度は大きい。他方、宇部丸山ダムは川の水量を制御するダムではなく、位置も国道から堰堤が僅かに見えるだけに知名度は低い。しかし後述するように、丸山ダムは厚東川ダムと連携して河川の水資源と位置エネルギーを最大限利用する裏方役であり、特に夏場の渇水対策に大きく貢献している。(→水資源確保の役割

7月の定例イベントである森と湖に親しむ旬間の見学ダム対象からは外れているが、厚東川ダムとの連携設備や取水塔、厚東川1期工業用水道や丸山用水の取水部など特殊な設備が多い。記事の数が多くなることが予想されることから当サイトでは丸山ダムを特定物件に位置づけている。

以下、この総括記事ではダムの上と下にエリア区分し記述する。それぞれの詳細は記述量が増えるごとに個別の記事に分割する予定。
《 ダム下エリア 》
ダム下は堰堤中央に位置する余水吐から流れ出る薬師川を中心に左右に分かれている。
【 公園 】
車地に近い東側エリアにあり、車での入場はできない(チェーンが張られている)が国道から外れて車を停め置ける充分なスペースがある。
ダム堰堤に向かって緩やかなスロープを登っていくとモニュメントの据えられた公園がある。


公園とは言ってもこのモニュメントがあるだけで、ベンチやトイレなどの設備は何もない。

以前はエリア内へ乱雑に樹木が伸びて雑木林のような状況だったが、2018年の春までに雑木が殆ど伐採された。2019年末には国道に近いエリアを雛壇状に造成し舗装整備している。
【 余水吐と流出路 】
丸山ダムはゲート操作を必要としない穴あきダムである。堰堤中央に3箇所の余水吐があり、満水位を超えればダム湖の水が排出される。
流水路断面は単カーブではなく、途中に水平状の踊り場を持つ二重のカーブになっている。


この独特な形状の理由は、ダム以前から存在していた工業用水と立体交差させるためと思われる。洪水吐からのダム水流下は試験湛水時以外ないと思われていたが、2021年8月の長雨の後で少量ではあるが満水位に達し洪水吐からの流出が観測された。

排出されたダム水はエプロンに貯留され、その後薬師川として厚東川に向かっている。
【 左岸監査廊入口 】
公園後ろの堰堤にブルーの扉が取り付けられた場所がある。
これはダム監査廊の入口である。


重力式ダムには堰堤からの漏水量などを調べるために内部に通路が設けられており、概ね両岸に出入口がある。丸山ダムでは東側の監査廊入口が公園エリアに面している。西側の監査廊入口は管理区域内にある。

内部は一般公開されておらず入ることはできない。以前は鉄格子の門扉で内部を外から窺うことができていた。東側の監査廊は一段高い位置にあるため、扉の内側は下り階段である。鉄格子の隙間からゴミなどを投げ込まれることが多かったためか鉄格子に金網が被せられ、後に現在のような扉に更新された。
【 噴水 】
西側エリアの奥にある。普段は涸れているが、灌漑用水需要期には水が噴き上げている様子がみられる。


この噴水は景観目的に造られたのではなく、田に供給する灌漑用水の水温を上げるためである。丸山ダムには選択取水設備がなく、ダム湖から一定水深の水を取り出している。この水をそのまま供給すると低い水温が稲の成育に悪影響を及ぼす。そこでダム水を噴水の形で一旦空中に放っている。その水は更にジグザグに整形された水路をゆっくり流れていくことで水温を上昇させている。

瓜生野交差点に近い西側エリアは噴水と管理区域への往来向けであり、ここに車を停めると国道へ出るのに見通しが悪く苦労する。
【 管理区域 】
噴水のあるダム堰堤側には施錠されたフェンス門扉が設置されており、関係者以外の立ち入りが出来なくなっている。フェンス越しやダム上から見下ろすことでエリア内のある程度の観察が可能。


ここには右岸監査廊入口をはじめ、ダム水を取り出すためのバルブ室や厚東川1期工業用水道から丸山用水を取り出すための関連施設がある。

厚東川ダム直下より送出される厚東川1期工業用水道は、丸山ダムの余剰水を流す流路の下を通っている。ダム上より管理区域を見下ろすと、水色に塗られた縞鋼板に No.7-1 などとペイントされているのが分かる。
ハイフンで子番号が与えられているものは恐らく後年建設された分水用の桝


丸山ダムより直接ダム水を取り出す部分と工業用水隧道が繋がっていて、双方から灌漑用水(丸山用水)を取り出して供給できるようである。この目的で工業用水隧道は交差部で僅かばかり開渠となっている。

ゲート操作の必要がないダムの管理所は無人化が標準だが、丸山ダムには当初からダム管理所が建設されていない。取水塔や注水塔の制御は厚東川ダムないしは県土木から行われるためである。関係者の来訪は、丸山用水関連のバルブ操作や点検、敷地内の草刈りのときのみである。
《 ダム上エリア 》
ダム上に向かうには、国道2号の丸山ダム表示のある押しボタン式信号機から市道薬師堂立熊線に入り、坂を登り切った地点より左折する。左折地点は二俣瀬小学校学童の描いたゴミを捨てないでの立て札が目印になる。これよりダムに向かう道は企業局の管理道になる。
駐車場
管理道を進んだ先の左側に砂利敷きの駐車場がある。


ダム堰堤からはやや離れているが、広さは充分にありダム湖に棲息するブラックバス等を目的とした釣り客の車が停まっている。以前は駐車場の入口に案内板があったが、老朽化したため取り除かれた。

駐車場内には企業局管理のトイレがある。ただし旧式の汲み取りでありトイレットペーパーは備わっていない。水道は貯めた水を供給しているため飲用にはできない。トイレ裏手には丸山砦の史跡があり、近年郷土史研究会により案内標識が設置された。

管理道が一番高い位置にさしかかったところに舗装されていないコブ状の膨らみがあり、丸山溜め池の由来やダムに関する説明板が設置されている。
やや広くなっているためここにもよく車が停まっている。


ダム堰堤に向かって緩やかな下り坂となり、堰堤東岸側にも駐車場がある。
アスファルト舗装されているがダムに向かって傾斜しているためやや停めづらい。また、釣り客は水際へ降りやすい場所近くに車を停めることが多く、ダム堰堤に近いこの場所は水際へ降りられないことから殆ど車が停まっていない。

堰堤上は車で通行可能である。
離合できる幅はないので、反対側からの車が来ないことを見て進行する必要がある。


この他に宝くじの益金を寄付して植えられたサクラと記念碑、二俣瀬小学校の周年記念碑などがある。
【 ダム堰堤 】
ダム堰堤内側の様子。
垂直壁で何処からも上がれる場所はないのは一般のダムと同じである。


流入の多い河川がなく上流からの流木などの滞留がないため、ダムの周辺に網場は存在しない。

下流側の様子。
傾斜した駐車場側から階段が伸びていて徒歩で相互に往来可能である。


ただし階段を利用する人が少ないため夏場には藪に覆われる。右岸側は管理区域になっているので階段自体が存在しない。

帰路は来るとき通った市道をそのまま引き返すのが分かりやすいが、国道2号の往来が極めて多く、車の切れ目を見つけて合流するのが非常に困難である。特に右折して瓜生野交差点方面に向かいたい場合、上下車線の車が切れるまで1分以上待つような事態も起こり得る。狭い道を通ることを厭わなければ、一旦ダム堰堤を通って左岸側へ渡り、国道2号の一つ山側を通る市道瓜生野線を通れば瓜生野交差点へ安全に出られる。

・丸山ダムは企業局の管轄となるダムである。このようなダムはさほど珍しくはないものの数は少ない。県内では他に美祢ダム水越ダム湯の原ダムが挙げられる。このうち毎年夏季に開催される「森と湖に親しむ旬間」で見学可能なのは湯の原ダムだけである。

《 ダム湖周辺 》
ダム湖の周辺に散在する設備など。
【 ダム湖 】
ダム湖は大小2つの沢を堰き止める形で生じており、尻尾の折れ曲がったザリガニのような形状をしている。工業用水の貯水池であること、真締川ダムの未来湖などとは異なり湖面が一般開放されていないことから特に愛称は付けられていない。当サイトでは「ダム湖」ないしは「丸山ダム湖」と表現している。

厚東川第2期利水事業の当初計画では、薬師川から尾根一つ西に隔てた大坪川を堰き止め、丸山ダム湖同様に湖水を相互運用する大坪ダムを造る計画があった。しかし立熊地区をはじめとする水没家屋が多く代替地問題が難航したこと、計画策定後のオイルショックにより工業用水需要が低迷したことから事実上撤回されている。
注水塔
ダム湖の東側半島部分に小野湖からの水を受ける注水塔がある。市道薬師堂立熊線から分岐する管理道を経て塔の手前まで行くことができる。


一時期立入禁止になっていたこともあったが、現在は不法投棄防止のため四輪が入れないようバリケードが設置されているだけで、徒歩で注水塔まで行くことはできる。注水塔までの管理道は舗装されている。それより更に半島の反対側を辿る道があり地理院地図にも記載されているが、通る人が殆どないらしく廃道状態となっている。
取水塔
ダム湖の南西にある大きな建造物は取水塔であり、山陽小野田市の有帆ポンプ場に送水している。
取水塔のすぐ前まで行くことはできるが、塔への通路は立入禁止になっている。


注水口と異なり、太い円筒柱の上にサイコロ状の建屋が乗った独特な形状をしていて、当サイトでは以前から「灰色の豆腐」と勝手呼称している。円筒柱内部には螺旋階段があり、工業用水を取り出すポンプが2基据えられている。

取水塔よりダム水を取り出す過程で利用されていなかったダム水の位置エネルギーを利用する形態でマイクロ発電所が建設され、2016年4月より宇部丸山発電所として稼働開始している。有帆ポンプ場向けの送水隧道に接続される制御バルブの一つを発電水車に置き換えることによって実現している。
【 太陽光発電設備 】
取水塔の近くにはかつて太陽光発電用パネルを載せた筏が浮かんでいて、発生させた電力で水質浄化装置を駆動し、余剰分を中国電力に売電していた。日々の発電量を示す電光掲示パネルがメインのダム堰堤駐車場端に設置されていたが、暫く故障中の貼り紙がされた後、撤去されて二俣瀬地区の郷土マップに置き換えられている。太陽光パネルによる発電は暫く継続されていたが、パネルの経年変化により発電量は徐々に低下し、2019年頃に筏ごと撤収された。

得られた直流電力を交流に変換し昇圧する設備は、取水塔に向かう管理道の脇に造られている。なお、取水塔のすぐ近くにあるコンクリートの大きな建屋は、停電などによる不測の事態で電源が断たれたとき取水塔の操作を行う電力を確保する設備である。
【 循環装置 】
湖面を眺めていると、時折ダム堰堤付近の数ヶ所で下から水が沸き上がってくるのが見える。


これはアオコなどの発生を抑える水質改善目的の循環装置に依る。バス釣り客が湖上をボートで往来することで接触する案件があったのか、循環装置のある場所には黄色いブイが浮かべられている。ウェイトを装着して沈められているため本体を目にすることは通常ない。循環装置への給電は取水塔に向かう管理道沿いにある。
【 丸山水神社 】
取水塔より先の管理道沿いに丸山溜め池の由来を記録した石碑と本殿が存在する。


石碑は昭和41年とあるので、恐らくダム湖に沈んだ丸山溜め池の堰堤に据えられていたものを移設している。神社はダム建設から暫く経った平成期に入って祀られたもので、地元企業などがお金を出し合って造られた。
【 管理道 】
市道薬師堂立熊線の分岐から駐車場、堰堤上を通ってダム湖の北岸を通る道は、企業局の管理道である。取水塔から先で分岐し、かつては四輪でダム湖を周回することができた。しかし人目に着かない場所であり車で容易に侵入できることから不法投棄が絶えず、近年管理道の一部区間は車での進行ができなくなった。秋口にはコース別のマラソン大会が開催される。

ダム管理道の北西側は中国電力の山口変電所に極めて近接している。変電所の敷地横からもこの方向に舗装路が伸びており、その末端部分と管理道は100m程度(歩数換算で230歩[9])しか離れていないにもかかわらず車が通れる道は存在しない。自転車の押し歩き程度なら往来可能な山道が存在する。管理道がもっとも変電所に近づく場所では変圧器の電気音が聞こえる。
大坪ダム向け取水塔
ダム湖の北側半島部に使われていない取水塔がある。壁をマーキングされたりガラス窓を割られるなど荒れた状態で放置されている。


これはかつて大坪ダム建設が計画されていた時期、丸山ダム湖から立熊へ水を送るために建設された取水塔である。丸山ダムを建設することにより小野湖を拡張して工業用水を確保したものの、更に伸びる用水需要に応えるために西側の尾根を隔てた立熊地区に大坪ダムを建設して同様の手法で水を送る予定であったが、その後のオイルショックなどで用水需要が低下し、丸山ダムの水で賄えることとなったため大坪ダム建設と共に頓挫した。取水塔は早期に建設されたものの、一度も稼働することなく圧力隧道も掘られないまま放棄されている。
《 離れた場所にある関連物件 》
ここでは、ダム堰堤の上下エリアとダム湖に隣接する以外で丸山ダムに関する物件をまとめている。厚東川ダムと連携しているため、厚東川ダム近辺に多い。
【 圧力隧道 】
前述のように、厚東川ダム側の小野湖の入り江と丸山ダム側の湖底は隧道で繋がっている。低水連結路はEL=20.00m、高水連結路はEL=33.00m [3]でいずれも湛水面以下にあり常に水圧がかかっている。このため圧力隧道と称されている。数年に一度、ゲートを降ろして隧道内部のダム水を排除した上で点検が行われている。

両ダム湖の湛水面より低い沢を通す場所では直径4000mmの巨大な鋼管が地表に現れている。これは県の運用する最大径の導水管であり、航空映像からもはっきり視認することができる。


関係者以外殆ど知られていない物件だが、現地へのアクセスは容易で県道小野木田線から道々池への分岐路途中にある。フェンス越しに巨大な鋼管が山の斜面から降りてくる奇観に接することができる。(俗称「水色の大蛇」
【 宇部丸山ダムポンプ場 】
厚東川ダム直下にある二俣瀬発電所より下流側に位置する。ダム水の一部を動力によって丸山ダム側へ送出している。2014年に竣工。
梅雨前の豪雨に備えて従来は小野湖の水位を下げていたものを、事前に丸山ダム側へ送出することにより従来は捨てていたダム湖水を有効利用し渇水に備えることが可能となった。従来は圧力隧道により連結されていたため、小野湖と丸山ダム湖の水位はほぼ一致していた。
《 成り立ち 》
丸山ダムのある地には、古くから母体となる丸山池という溜め池があったことが知られている。この溜め池についての説明板が堰堤東側の駐車場付近にある。


説明板には瓜生野の地に二俣瀬の三賢人と称されるうちの一人である茂平という男が住んでいて、旱魃と重い年貢に苦しんでいたことから村民を奨励して丸山池を築堤し美田の基礎にしたことが書かれている。丸山池は現在のダム湖の西側の沢地に存在していたようである。

ダムの西側管理道沿いには丸山水神社があり、沿線に県の説明板の大元となった丸山溜池由来の石碑が据えられている。
これは恐らく丸山池の堰堤にあったものを移設したものと思われる。


丸山池築堤の時期はまだ調べていないが、稲作の拡大や年貢などの系統が整備されていたことから江戸期と思われる。

丸山ダムの完成までは丸山池は灌漑用として使われていたようである。しかし丸山池が丸山ダムの完全な母体であったのではなく、それ以前からダム湖の候補地となる場所を灌漑用水の貯留池として使っていたようである。

これは昭和22年度の米軍撮影による航空映像である。
既にダム湖に類似する広域の溜め池のようなものが見えている。
出典: 地理院地図空中写真(USA-M318-2-14)より抜粋


これは厚東川1期工業用水道より供給される用水の貯留池と考えられる。厚東川ダムの完成以前から厚東川上流の取水地(現在は小野湖底に沈んでいる)から用水を送る導水路が存在していた。この導水路が木田や丸山地区を通過するとき建設用地を提供する代わりに導水路から灌漑用水を分水する水利権(丸山用水)を得ている。この水を現在丸山ダムがある場所へ貯め置いて必要に応じて取り出していたようである。[7]

昭和49年度版の地理院地図では、既に丸山ダム自体は完成している。しかし丸山池と堰堤上の道がまだ明瞭に見えている。


ダム建設の工期は昭和46〜50年度で買収用地は49haである。水没家屋が5戸あったことが知られている。[3]湛水時の伐採は充分には行われていなかったようで現在でも水位が低下したとき入り江部分の至る所で埋没林がみられる。

丸山ダムの完成に伴い丸山池と貯水池は湖底に沈むこととなったが、丸山用水の水利権は現在も継承されている。瓜生野周辺の田は企業局の責任において丸山ダムまたは厚東川1期工業用水道より分水し、灌漑用水として供給している。
《 水資源確保の役割 》
丸山ダムは専ら利水に特化したダムである。母体となっている薬師川は流域が狭く、沢尻をダムで締め切って巨大な貯水池としたイメージなので治水は必要ではない。ダム湖の水の殆どは小野湖由来で、これに薬師川流域の水が加わっている。

厚東川ダムは美祢市エリアを含む広域の雨水を集める厚東川に造られているため、下流域の水害を可能な限り防ぐ治水の役割がある。特に梅雨時は豪雨に見舞われやすく、流入量が急増してもある程度ダムに溜めて下流への流出量を抑えるために、事前に小野湖の水位を下げて対処する。従来この水はそのままダムから放流されていた。しかし梅雨明けは灌漑用水需要が続く上に日照りが多く、空梅雨に終わると水不足の危機に晒される。

丸山ダムは利水に特化したダムであり薬師川の流入の影響も殆どないため、梅雨時でも湛水量を下げて対処する必要がない。そこで2014年に宇部丸山ポンプ場が完成してからは、梅雨前の豪雨に備えて以前は放流していた厚東川ダム水を能動的に丸山ダム側に送ることで渇水リスクを軽減させている。[6]ダム湖水の送出に要する電力の一部は、有帆ポンプ場に送水する取水塔のバルブの一基を発電タービンに置き換え、有効落差をマイクロ水力発電で回収される。

平成中期あたりまでは夏場の渇水で工業用水・上水道の定率カットがしばしば行われていた。少雨に伴う節水の呼びかけは近年でも行われるが、工業用水カットのみで上水道の断水はもちろん定率カットが行われることも殆どない。この裏には宇部丸山ポンプ場による事前の宇部丸山ダム側への貯留が大きく貢献している。
《 利用状況 》
丸山ダムは昭和50年代前半の建設であり、ダムとしての機能の他にいくらか景観面が考慮され始めた時代である。しかし現在の視点からすれば充分とは言えず、来訪者向けの設備はあまり整っていない。前述のように駐車場は整備されているが、トイレは旧式であり上水道が引かれていない。

管理道沿いにはサクラが植えられており、季節になると花見客もある程度訪れる。しかし近年ではダムサイトにある花見スポットとしては今富ダムの方が評価が高い。これは北部地域振興の過程でダム周辺の植栽を整備したことが大きい。
ただし今富ダムもトイレと上水道は同じ状況

丸山ダムは工業用水の貯水池という位置づけのため、小野湖や未来湖とは異なりダム湖面の一般開放はされていない。しかしダム湖にはブラックバスなど外来種の魚が多く棲むらしく、平日でも釣り客が絶えない。岸辺にはチェーンの張られた擬木の柵があり、立入禁止の札もぶら下がっているが、立て札などは文字が消えて読めない状態で放置されており事実上黙認されている。

近年では自前のボートを持ち込んで船釣りする来訪者が多く、これも今のところ黙認されている。


水の事故が起きればそれを契機に釣りやボートが禁止されるだろう。
《 近年の変化 》
・ダムカード配布対象のダムである。対象になった時期としては後発である。配布場所はダム下の国道2号沿いにある二俣瀬地域交流センターダムの郷と二俣瀬ふれあい市場とされている。[5]ただし近年は covid19 の影響で配布を停止している模様。

・宇部丸山発電所が2016年4月より稼働開始し「森と湖に親しむ旬間」で本年度より見学対象となった。あわせて発電所カードが来訪者向けに配布されるようになった。ただし丸山ダム自体は見学対象ダムにはなっておらず今のところその予定もない。[8]
また、同年10月からは宇部丸山ダムのダムカード配布が始まっている。カードを受け取るための条件は他のダムと同様だが、ダム事務所が存在しないのでダム直下にある二俣瀬地域交流センターダムの郷や二俣瀬ふれあい市場でダムを訪れたことが証明できる画像を提示する形式となっている。

・2019年12月頃からダム下の伐採された雑木エリアの造成工事が始まっている。国道2号に面した部分には住宅地にみられるような練積ブロックによる雛壇が造られた。写真は堰堤上からの撮影。


この雛壇部分は端に転落防止策が設置され舗装された後はそのままになっている。
《 個人的関わり 》
注意以下には長文に及ぶ個人的関わりが記述されています。レイアウト保持のため既定で非表示にしています。お読みいただくには「閲覧する」ボタンを押してください。

出典および編集追記:

3. 市上下水道局では丸山湖と呼んでいるようである。

4.「わたしたちの宇部 資料編(昭和48年度版)」p.36

5.「宇部丸山ダムカード|企業局管理ダム|山口県

6. この機能は2016年の梅雨明け以降続いた小雨で極めて有力に奏功した。厚東川ダムの水位が従来であれば自主節水の検討段階に入る基準値(36.0m)を一時的に割り込みながらその後の大雨(8月28日)で水位を回復し自主節水に至らずに済んだ遠因である。(2016/9/2)
しかし翌年は小野湖上流部の浚渫工事で同様の操作で宇部丸山ダムに貯留した上で水位を下げたものの、工事後も降水量が極めて少なく現在小野湖の水位は近年ないほどに下がっている。宇部丸山ダム湖を満水にしているとは言っても貯水量は小野湖よりはるかに少なく、今後の小雨の状況によっては深刻な水不足に陥ることが心配される。(2017/6/14)

7.「宇部(MCG624)1962/05/22(昭和37年)国土地理院による航空映像」では昔からあった丸山溜め池に隣接する形で工業用水が貯留される湖のようになっていたことが分かる。
画面左下の高解像度表示ボタンを押すと詳細画像が閲覧できる

また「宇部の水道」p.75 の丸山用水に関する記述でも1期水から取水し溜めていたという記述がある。

8.「山口県企業局|宇部丸山ダムのダムカードについて

9. 2020年6月2日調べ。管理道の黄色いガードレール切れ目から山口変電所方向に歩いて奥の舗装路端にあるアルミフェンスまで230歩だった。これはおよそ160mに相当する。

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